大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)86号 判決

一 請求の原因(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、審決を取り消すべき事由の有無について、検討する。

(一) 審決理由中、本件発明の要旨、請求理由の要点、各引用例の記載内容は当事者間に争いがない。

(二) そこで、まず、本件発明の要旨についての審決の解釈に誤りがないかどうかについて考える。

1 審決は、本件発明の要旨について、制御機器の作動方法を原告のいわゆる半導体法に限定して解釈したことは、成立に争いのない甲第三号証により明らかである。

2 そこで、この解釈が正当かどうか特許公報の記載に即して吟味することにする。

(1) 成立に争いのない甲第一号証(特許公報)によれば、本件発明の特許請求の範囲には、「還元性気体に接する事により導電性が良好となるよう変化する金属酸化物還元型半導体をリレー、モーター等の制御機器に接続し該半導体に還元性気体が接触した時、自動的に制御機器を作動せしめるようにした事を特徴とする気体による自動制御装置。」と記載されているのみで、右半導体をどのような態様でリレー、モーター等の制御機器に接続するのかについては明記されていない。

しかしながら、金属酸化物還元型半導体の有する属性のうち、特に還元性気体に接することにより導電性が良好となるよう変化する属性を特許請求の範囲に特に記載したことは右半導体の属性のうちこの属性を利用して還元性気体を検出することを意味していると一応解することが可能である。

(2) また、前記甲第一号証によれば、発明の詳細な説明欄には、まず本件発明は酸素と結合し易い、即ち、還元性を有する気体と接触することにより、その電気抵抗値が良好となるよう変化する金属酸化物半導体を用いて造られた素子とリレー、電磁弁、バイメタル、モーター等の制御機器を組合わせてなる制御装置に関するものであることが述べられ(公報一頁左欄上から一〇行~一八行)、還元型半導体が酸素と結合し易い気体に接したとき、界面において吸着が起り解離平衡はやぶれ、その導電性は著しく変化することが説明され(公報一頁左欄下から二行~右欄一二行)、さらに本件発明がこの原理を利用するものであることが記載されている(公報一頁右欄二九行)こと、しかも半導体の他の性質を利用することを示す何らの記載もないこと、実施例として電源Bとリレー、電磁弁、モーター等の制御機器Cとの間に、還元型半導体Aを直列に接続した装置が記載されている(公報一頁右欄上から二九行~三五行、公報二頁、図面)ことが認められる。

(3) このようにみてくると、金属酸化物還元型半導体が還元性気体に触れると発熱することは当事者間に争いがないけれども、本件発明はこの発熱現象を利用せず、還元型半導体が還元性気体に接すると導電性を増加するという電気的性質を利用するもの、すなわち導電性が増加したときにその電流を制御機器に作用させるものであると解するのが相当である。

また、前にも述べたように特許請求の範囲には半導体をどのような態様でリレー、モーター等の制御機器に接続するのか明記されていないが、前記発明の詳細な説明欄の記載や図面をあわせると、本件発明は金属酸化物還元型半導体を素子として還元性気体に接することにより導電性が増加するのを利用し、この導電によりリレー、電磁弁、バイメタル、モーター等適宜の制御機器を作動させるものに限定されており、右半導体に触媒の作用をさせ、その時の発熱による温度上昇を温度検知機構により検知し、これを電気信号に変えて制御機器を作動させるようなものは含まないと解するのが相当である。

したがつて、本件発明の要旨についての審決の解釈には誤りはない。

(三) 次に、それにもかかわらず、本件発明は第一ないし第三引用例から容易に推考できたといえるかどうかについて検討する。

1 金属酸化物還元型半導体には還元性ガスを吸着すると導電性が良好となるように変化する性質があるという原理が第一引用例および第二引用例から本願出願当時公知であつたことは当事者間に争いがない。

他方、第三引用例には金属酸化物の触媒としての性質を利用し、還元性ガスに触れて発熱する際の温度上昇を熱電対等の温度検知機構により検知してこれを電気的信号に変換し、それにより自動制御する装置が記載されていることも当事者間に争いがない。

2 しかしながら、第三引用例における金属酸化物は還元型(N型)半導体と認めるに足りる証拠はなく、またガス検知により自動制御装置を作動せしめる方法も、第三引用例においては、金属酸化物の触媒としての性質を利用し金属酸化物が還元性ガスに触れて発熱することによる温度変化を検知することを介してなされるものであるから、半導体の電気的性質を直接利用して自動制御装置を作動させる本件発明とはガス検知手段および自動制御装置の作動方法を全く異にするといいうる。

そして、半導体の電気的性質を直接利用してそのガス接触による導電により自動制御装置を作動させるという技術的思想を示唆する資料が本件発明の出願当時存在したことを認めるに足りる証拠もない。すなわち、第一引用例には「半導体に気体が吸着すると、半導体の導電率が変化する」「N型半導体に気体が吸着すると、半導体の導電率が変化する」旨の記載があることは当事者間に争いがないけれども、成立に争いのない甲第四号証(第一引用例)によれば、右の引用例は、化合物半導体の物性の研究という面から半導体の気体吸着現象を理論的に説明したものであることが認められ、また第二引用例には「一酸化炭素の吸着にともなつて五酸化バナジウムの伝導度が変化する」旨の記載がなされていることも当事者間に争いがないけれども、成立に争いのない甲第五号証(第二引用例)によれば、第二引用例は酸化バナジウム(V)の触媒についての物理的・化学的性質と、ガス吸着に伴う触媒作用との関連性について検討する目的で酸化バナジウム(V)単独触媒による酸素、一酸化炭素、炭酸ガスの導入による酸化バナジウム(V)の電気伝導度の変化について記述したものであることが認められ、両引用例とも半導体の電気的性質を利用してそのガス接触による導電により直接自動制御装置を作動させるという技術的思想を示唆しているものとまでは認め難い。(なお、甲第八号証は、引用例とされているものではなく審決の判断を経ていないから、これとの対比において本件発明の進歩性の有無を論ずべき限りではない。)

3 そうすると、第三引用例には1に記したような記載があり、また前記のように金属酸化物還元型半導体には還元性ガスを吸着すると導電性が良好となるよう変化する性質があるという原理は第一引用例および第二引用例から本件発明の出願当時公知であつたとしても、そのことから当然本件発明の進歩性がないとすることはできないし、作用効果の点において、金属酸化物還元型半導体の電気的性質をガス検知、自動制御に直接利用する本件発明は、第三引用例に記載されているような従来技術、すなわち金属酸化物を触媒とし、その温度変化をガス検知、自動制御に利用する技術に比べれば、熱電対等の温度検知機構を介する必要がない(この点は当事者間に争いがない)という格段の作用効果を齎すものであるから、本件発明の進歩性を否定することはできないというべきである。(なお、成立に争いのない乙第三号証((エレクトロニクス・セラミツクス昭和四九年一月号))によれば、「気体吸着に伴う半導体素子の導電率の変化を利用して気体成分を検出する方法は、最近トランスデユーサーの一つの分野として注目を集めている」ことが認められ、このことからすれば、この方法によるガス検出技術は本件発明の出願以後注目を集めて来たものとうかがわれる。)

4 そうすると、本件発明は第一ないし第三引用例から容易に発明することができないとした審決の判断に誤りがあるとはいえない。

(四) 以上のとおりで、当審にあらわれた主張と証拠からは審決を取り消すべき事由はなく、審決は是認できる。

三 むすび

よつて、原告の本訴請求を棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

還元性気体に接する事により導電性が良好となるよう変化する金属酸化物還元型半導体をリレー、モーター等の制御機器に接続し該半導体に還元性気体が接触した時、自動的に制御機器を作動せしめるようにした事を特徴とする、気体による自動制御装置

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!